最高裁判所第三小法廷 昭和29年(あ)2649号 判決 1955年4月05日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人内藤三郎の上告趣意第一点について。
本件控訴が被告人のした控訴であること、第一審判決が被告人から金一万円を追徴するとしたのを、控訴審判決は第一審判決を破棄して押收の千円札九枚はこれを没收し、金千円を被告人から追徴すると変更して言渡したこと並びに所論大審院判決が、第一審において追徴を言渡した金員の一部を控訴審において没收に変更することは不利益変更禁止の原則に違反するとしていることは、いずれも所論のとおりである。
しかしながら、控訴審判決の言渡した刑が第一審判決の刑より重いかどうかを判断するには、刑名等の形式のみによるべきではなく、第一、二審判決において言渡された主文の全体を観察して控訴審判決の刑が第一審判決の刑よりも実質上被告人に不利益か否かによって判断されなければならないことは、当裁判所の判例とするところである(昭和二五年(あ)二五六七号昭和二六年八月一日大法廷判決、昭和二五年(れ)四九四号昭和二五年八月九日第二小法廷判決、昭和二八年(あ)三四三四号昭和二八年一二月二五日第三小法廷判決)。ところで、第一審判決で言渡された追徴を控訴審判決で没收に変更することは、形式的にみれば新たに刑を言渡した観があるけれども、没收すべき物の全部又は一部を没收することができないときは、その価額を追徴し得ることは一般に刑罰法令の規定するところであって、没收と追徴とは表裏一体の関係にあるのであって、その金額が同一である以上、追徴を没收に変更したからといって、被告人の利害は実質上異ならないのであるから、これを目して不利益に変更したものと言うことはできない。本件において、第一、二審判決が被告人から徴收する総金額は同一であるから、第一審判決の判示したようにその全体が追徴に当るか、或は控訴審判決の判示したようにその一部分が追徴に当り、その余の部分が没收に当るかは名義上の区別に過ぎず、いずれの場合でも被告人の負担はその実質において不利益に変更されるところはない。それ故、原判決が所論のようにその主文において第一審判決と異なった言渡をしたとしても、その言渡は刑訴四〇二条に違反しないものと解するのが正当である。されば、論旨掲記の大審院判例はこれを変更して原判決を維持するのを相当と認めるので、論旨は採用することができない。なお、原判決には刑訴四〇二条の違反はないのであるから、同条の違反があることを前提とする違憲の主張も理由がない。
同第二点について。
所論は事実誤認の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして、本件には刑訴四一一条を適用すべき事由も認められない。
よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)